流通を科学する -流通科学大学学長 石井淳蔵のページ- > Book Review 『第二次大戦 日米英流通史序説』
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更新日:2010年7月7日
市場社会のなかに統制経済が導入されたわが国の戦前・戦中の経験。そして敗戦により統制がとかれたものの、すぐに統制経済へと回帰した戦後まもなくの経験。これらの経験は、統制と市場の交替のなかにさまざまな形で現れるダイナミズムを深く知る重要な手掛かりだ。本書は、米英の同時期での経済・流通史を参照しつつ、その課題に挑む。わが国では、その種の研究は少なくそれだけでも価値あるものだが、それにも増して、著者の記述の底流にあるストーリーが読者の心に響く。
戦時非常時、大政翼賛の時代。国民に等しく行き渡ることを狙って、同一機能、同一品質、同一価格に設定しようとする統制者。ステレオタイプの理解だと、「企業も、政府が指示する経済に易々と従ったはず」と考えてしまいがち。だが、競争における差別的優位性を確立したブランドは、価格統制に抵抗する。実際、花王や味の素は経済統制に抗戦する。
加えて、ブランド商品が他と商品と同一価格で売られれば、当然のことながらそこに人気は集中する。流通業者も含め、ブランド商品の売りおしみや買い占めが始まる。商品は等しく万人に配給されない。市場は、政策当局の当初の期待に背く動きを作り出す。それに対し、当局は、別途新たに商品配給方式を編み出すことで、さらに介入を強化する。
野菜や魚など生鮮食品も同じだ。市場の反乱が起きる。生鮮食品の価格も、国民全てに平等に行き渡るように低めに設定されたが、それにより利を求めて動く業者は、費用がかさばる東京などとか位置の卸売市場への商品出荷を取り止め、都会地に生鮮品が出回らなくなる。それに対して当局は、産地に対して、改めて出荷先や出荷市場を指定せざるを得なくなる。製造品と同様、統制のためにさらに大きい資源が投下される。
以上は本書の話の一部だが、それでも2つのテーマが伝わる。第1に、市場は、機械のように計画者の予想通りに反応する存在ではなく、生きた存在だと言うこと。机上では計算しつくせない動きが、市場の中に常に生まれる。第2に権力を行使し統制を強化すればするほど、市場の反乱を招き、権力は、市場のさらに細部に入り込んで統制していかざるをえなくなる。「泥沼化する権力メカニズム」とでも呼ぶべき権力特性が浮き彫りになる。
温故知新を実感させる。商品流通の課題を真摯に考える多くの方にぜひ一読を勧めたい。
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教学部社会連携推進課
担当者:平江 文乃