歴史や伝統には、お金では買えない“生き抜くため”の知恵や蓄積がある

歴史や伝統には、お金では買えない“生き抜くため”の知恵や蓄積がある

公開日:2021年2月10日

15代・小西新右衛門

日本を代表する各業界の企業のトップを講師に招き、日常ではなかなか知ることのできないビジネスの本質を学ぶ【企業論特別講義】。第4回目を10月28日(水)に実施しました。

この日の講師は、創業470周年を迎えた今年、歴代当主同様に『新右衛門』を襲名し、『15代・小西新右衛門』として再スタートを切った、小西酒造株式会社 代表取締役社長の小西新右衛門氏。これまでを振り返り、歴史から学ぶ経営、日本酒を取り巻く現状、新時代への思いなどについてお話しされました。

経営の根底にあるのは『不易流行』の理念

小西酒造

小西氏は、大学卒業後にイギリスへ留学。そこには、「400年の歴史を持つ小西酒造の将来を考えるヒントを掴める」との思いがあったそうです。現地で語学やマーケティング論を学ぶなかで、『外国人の発想の多様性』『価値観や文化の違い』『互いに理解し合い、認め合う重要性』などが、生き方に大きな影響を与えた、といいます。

そして、代表取締役社長に就任後、掲げたのが『不易流行』の経営理念。これは、松尾芭蕉が『奥の細道』の旅の間に体得した、「不易を知らざれば基立ちがたく、流行を知らざれば風新たならず」という概念だそうです。つまり、「不変の真理を知らなければ基礎が確立せず、変化を知らなければ新たな進展がない」という意味。小西氏は、変わらないもの、変えてはならないものを大切にしつつも、現代の潮流や社会の変容に的確に対応できるよう新たなチャレンジを続けているのです。学生たちに対しても、「皆さんにも、現在と歴史を置き換えて、先人たちがどのようにして生き抜いてきたか、勝ち抜いてきたかを学んでほしい」と話しました。

江戸時代からすでに展開していた“マーケティング戦略”

日本酒衰退の現状を打破

近世後期、伊丹の酒造家が次々と没落していくなか、小西家が存続し続けることができた要因を、「生産から流通、販売のシステムを一族で確立したことにある」と、小西氏は話しました。江戸に送る酒は、ほかの積荷と混載されて運ばれていた時代。小西家は伝法で廻船問屋をはじめ、安永元年(1772年)には伝法店を安治川に統合した樽廻船問屋の大店を構え、酒輸送の効率化を図りました。また、江戸市場における下り酒(上方で生産され、江戸へ運ばれ消費された酒)の販路確保のため、日本橋に下り酒問屋を開設すると、他の酒造家の酒も扱い、経営を拡大。江戸における下り酒の販売拠点に。

現在、マーケティングは企業経営の重要な柱に位置づけられています。しかし、小西家では当時からすでに“江戸”という大消費地に着目し、マーケティング戦略を展開。まさに先見の明があったといえます。『物流を制するものは市場を制する』とも言われますが、生産から流通、販売までを一手に扱うシステムを確立したことが、今日の小西酒造の礎を築いたのです。

日本酒衰退の現状を打破するため、新たなチャレンジを

伊丹で薬種業を営んでいた小西新右衛門が始祖となり濁酒造りをはじめ、1600年代に入ると酒造業を本業とするように。以降、400年以上に渡って日本酒造りを営んできました。

しかし、近年は日本酒離れが進行。「日本酒を取り巻く環境は厳しくなっている」と話す小西氏。その現状を打開するため、若い世代や女性にも受け入れられやすいお酒や、さまざまな料理に合うお酒の開発、ワインやビールなど新しい酒造り、さらにはイベント開催にも積極的に取り組まれています。今年も、『日本酒の日』である10月1日(木)の前後9日間を『日本酒で乾杯WEEK』とし、日本酒のおいしさや乾杯の楽しさを体感するイベント『全国一斉日本酒で乾杯! 2020』を、コロナ禍のなかでなんとか開催。こうした取り組みを通して、日本酒に接する機会を増やしています。

また今年は、下り酒が産んだ銘醸地・伊丹と灘五郷が※日本遺産に認定。しかし、小西氏は、「形のないものを伝統として築いていけるのか? と今でも問いかける」と言います。形を残すと同時に、“精神を残す”ことが大切、と。そのため、江戸時代から続く酒造りの文化を連綿と継承する取り組みをされています。

※ 文化庁が地域の歴史的魅力や特色を通じて、我が国の文化・伝統を語るストーリーを『日本遺産(Japan Heritage)』として認定。ストーリーを語るうえで不可欠な、魅力ある有形・無形のさまざまな文化群を総合的に活用する取り組みを支援するもの

願うのは、コミュニケーションの媒体として酒が存在すること

歴史や伝統

「歴史や伝統だけでは、経営は成り立たない。しかし、歴史や伝統にはお金では買えない知恵や蓄積、重さがある」と、小西氏は言います。これらを大切にしつつ、時代の変化を読みながら新しいチャレンジをすることが重要だ、と。『売り手よし、買い手よし、世間よし』。この“三方よし”の考え方に基づき、消費者視点の商品開発・地域への貢献にチャレンジし続けている小西酒造。これは、企業として果たすべきことである一方、学問や文化、人間形成にもそのまま当てはめることができます。小西氏は、「人々の集合体のなかで、人と人が助け合って生きる、ということ。それはすなわち、コミュニケーションである。コミュニケーションは最も重要なもので、その媒体として酒が存在することを願っている」と話しました。

そして最後に、「“現在”を精一杯生きてほしい。地域に、地球に、生かされている、ということを意識してほしい。そして、可能性のあることには最大限の努力をしてほしい」と、学生たちにメッセージを贈り、講義を締めくくられました。

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