輪島本町商店街による神戸・新長田視察
公開日:2026年2月13日

震災復興から31年の商業集積に学ぶ
2026年1月24日、石川県輪島市本町商店街振興組合の役員5名が神戸市長田区を訪れ、阪神・淡路大震災から31年を経た新長田地区の復興過程と現在の商業環境について視察・意見交換を行いました。神戸側からは、阪神・淡路大震災の復興に尽力された茶舗味萬の伊東正和氏と、本学商学部の長坂泰之教授が参加しました。
長坂教授は31年前の阪神・淡路大震災の際、新長田地区の商店街支援に携わった経験を持ち、その後は東日本大震災の被災地における商業復興支援にも関わってきました。今回の視察は、東日本大震災の被災地である宮城県女川町とのつながりを背景に実現したもので、過去の震災復興の現場から教訓を学び、能登半島地震後の商業復興のあり方を検討することを目的としています。
2024年1月の能登半島地震では、輪島朝市エリアを含む市街地が大規模な火災により焼失しました。商店街の建物とともに商業の基盤そのものが失われた点は、1995年の阪神・淡路大震災で新長田の市街地が火災により焼失した状況と重なります。住宅と商業が同時に失われ、単なる復旧ではなく「街の再構築」が求められるという点において、両地域には共通する条件があります。このため、火災によって商業集積が一度消失した都市が、その後どのように再建され、どのような課題を抱えてきたのかを直接確認することが、今回の視察の大きな目的となりました。
阪神・淡路大震災後の新長田では、住宅と商業を一体的に復興するため、駅前を中心とした市街地再開発事業が短期間で決定・実施されました。再開発ビルの低層階に商業床を配置し、中高層階に住宅を整備する複合用途型の都市構造が形成され、多くの商業者が元の場所に戻ることが制度上可能となりました。仮設から本設への移行も比較的早く、復興のスピードという点では一定の成果を挙げた事例として評価されています。

一方で、震災から三十年以上が経過した現在、商業床の運営という観点ではさまざまな課題も明らかになっています。視察ではまず、「通行量が多くても購買につながらない」という構造が指摘されました。再開発によって歩行者の流れは確保されたものの、来街者が滞在し回遊する仕組みが弱く、通過型の利用が定着しているという状況が共有されました。また、商業床が地下・一階・二階に分散配置され、ビルごとに管理主体が異なることから、面としての商業集積が形成されにくく、空き店舗の発生や用途転換が進んだ経緯も確認されました。
さらに、再開発ビル特有の管理費や修繕積立金などの固定費が長期的に上昇し、商業者の経営を圧迫している点も重要な論点となりました。建設時には理想的であった設備や空間構成も、長期的な運営費の観点からは負担となる場合があり、商業が持続するためには「建設時の計画」よりも「30年後の運営」を見据えた設計が必要であるという認識が共有されました。
震災前の新長田は、路面店が連続する生活密着型の商業集積であり、低コストで日常の購買を支える「平場の商業」が中心でした。震災後は再開発ビル内の立体商業へと構造が大きく転換し、同じ場所でありながら商業の前提条件が変化しました。この質的転換は商業者にとって大きな戸惑いを伴うものであり、復興までの時間の経過や高齢化、売上構造の変化などが重なり、結果として撤退や業態転換が進んだことが確認されました。


意見交換では、能登地域の復興に向けたいくつかの重要な示唆が得られました。第一に、「早く建てること」と「長く続くこと」は必ずしも一致しないという点です。復旧のスピードは重要である一方、商業者が長期的に支払える家賃や管理費を基準に計画する必要があります。第二に、商業床は量的に確保するだけでなく、段階的に拡張可能な構造や用途転換の柔軟性を持たせることが重要です。第三に、通行量だけでなく滞在時間や回遊性を高める空間設計が購買行動に直結するという認識も共有されました。
また、商業者個々が建物の負担を背負うのではなく、合同会社やまちづくり会社などの仕組みを活用し、リスクを分散する方法についても具体的な事例が紹介されました。仮設店舗を長期的に活用することで初期投資を抑え、固定費を最小化する考え方や、地域の物語やネーミングを通じて「記憶に残る商業」を形成する重要性についても議論が行われました。
今回の視察は、火災によって市街地が失われた地域同士が経験を共有する機会ともなりました。震災復興における商業集積の形成は単なる建設事業ではなく、長期的な運営と地域の持続性を見据えた設計が不可欠であることが改めて確認されました。新長田の経験は成功と課題の双方を併せ持つ貴重な事例であり、今後の能登地域の復興においても長期的視点から商業環境を整備していく必要性を示唆しています。
本学では今後も、被災地の商業復興や地域経済の持続性に関する研究・支援活動を継続し、現場の実践と学術的知見の往還を通じて地域社会に貢献していきます。今回の視察で得られた知見は、教育・研究活動に活かすとともに、今後の地域連携の深化につなげていく予定です。








